
私たち夫婦に男の子が誕生し、「這えば立て、立てば歩めの親心」、本当にそんな気持ちで早く大きくなることを願う毎日でした。
生まれて四十日目に中耳炎になってしまい、医者に通い治ったと言われたのですが、お誕生日が過ぎてもおとなしく眠っているのです。「音が聞こえないのでは」と耳鼻科に連れて行きました。「やはり聞こえが悪い」と言われ、どうすればよいのか目の前が真っ暗になり、頭の中は真っ白になって、しばらくぼんやりしてしまいました。
先生と相談の結果、東京の大学病院に行って、診て頂いたらと一言うことになりました。「手術ができれば」と言われ、入院の用意をして上京、慶応大学付属病院に行きました。
「小さくて手術はとても無理」と言われ、上京するときの期待は消え、寂しい思いで帰ってきました。
何とかできるだけのことはしなければと、耳鼻科に二年ほど通いましたが、「もう医学では治らない」と知りました。そのころ学校に行くことなど考えることもなく、ただ自分だけが普通の子供と話をするつもりで生活しておりました。
五歳の春、ろう学校に一年早く入れてもらえないかと思いましたが、義務教育だから無理だろうと考えました。それでもと思い学校に行きました。
そのときびっくりしました。一年早く入る子供が四人もいたのです。まだ幼稚部がないので義務教育で入る一年生と一緒の組に入れてもらいました。幸いなことに学校は歩いて三十分ほどのところにあるので、通学はとても便利でした。
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